2015年 11月 09日
【日本橋】お蕎麦「藪伊豆総本店」、楓川、新肴場のことなど |
毎回、江戸がらみのテーマで(映画や散歩などまったく違うこともありますが)、なんとなく毎月1回開催してまして、今月は、日本橋3丁目にある藪伊豆総本店さんで、11月23日(祝・月)に開催させていただきます。
藪伊豆総本店さん
藪伊豆さんは天保年間に「伊豆本」の名で創業した老舗。明治15(1882)年に神田やぶそばの“のれん”に包含されることになり、両方から名前をいただいて「藪伊豆」となったそうです。
そして平成8(1996)年、それまでずっと営業していた京橋を離れ、現在の日本橋3丁目に移転されたのだとか。京橋区、日本橋区と名乗っていた戦前だったらさぞかし葛藤があったことでしょう。
店の前の通りはもみじ通りといいます。江戸通な方ならピンとくる名前かもしれません。
そうです。
お店の裏を通る首都高速都心環状線は、かつて“楓川”と呼ばれた、八丁堀と日本橋を分かつ堀川でした。
首都高速都心環状線が走る現在の楓川
いまが江戸時代なら、藪伊豆総本店さんは楓川河岸にあるお蕎麦屋さん。
楓川は、南は八丁堀に、北は日本橋川につながる堀川でした。江戸時代後期、そこには5つの橋が架けられていたそうです。八丁堀に近いほうから、弾正橋、松幡橋、越中橋、新場橋、海賊(海運)橋と5本。
藪伊豆さんのある場所は新場橋のすぐ近く。
この新場橋付近には江戸時代、幕府から許可を得て開かれた新場と呼ばれた魚市場がありました。徳川家康のお墨付きを得て始まった公的な日本橋魚河岸を仕切る問屋らの口銭(仲介手数料、運賃、保管料など)の高さに閉口した漁師たちが、楓川河岸にあった材木町の商人らと組み、延宝2年(1678年)に幕府の許可を得て開いた半官半民の魚河岸です。
二代目歌川広重「江戸名勝圖會 新肴場」
まあそれでもいろいろ問題はあったようですが、安く魚を卸したため、庶民にはとてもありがたい魚河岸だったのではないかと思います。江戸っ子が好きだった鰹も日本橋ではなく、この新場河岸に運び込まれたとか。新鮮なうちに流通するよう開かれた夜市は、「新場の夜鰹」と呼ばれたそうです。
江戸時代なら魚河岸のすぐ近くあったはずの藪伊豆さん。一日の仕事を終え、夜鰹を仕入れに来た棒手振りが、魚が着くのを待って噂話なんぞしながら、蕎麦をたぐりよせている……、などと実に楽しい妄想図も浮かんでくるわけです。現在のもみじ通りに、そんな風情はみじんも感じられませんが。
楓川をわたった向こう側は八丁堀。
捕物帳などで名を聞く与力や同心が多く住んでいたところです。そんな武士の町でしたが、武家はその屋敷の一画を町家にして貸し、賃料を取っていたため、町人や噺家、歌人や学者なども多く住んでいたそうです。
日本橋方面から海賊橋をわたったところに坂本町という町がありました。
いまの日本橋兜町8丁目あたりです。
ここに渓斎英泉という浮世絵師が住んでいました。
菊川英山の弟子でしたが、葛飾北斎にも私淑し、戯作者として画家として、艶本や滑稽本、美人画、春画を世に送り、大変な評判を取っていたそうです。
物語の主人公になることは少ないのですが、文化、文政、天保あたりを描いた作品には、名脇役(!)として登場する英泉。
最近の映画では、原恵一監督の『百日紅~Miss HOKUSAI~』や、原田眞人監督の『駆込み女と駆出し男』などでもその人となりを見ることができます。でも『駆込み女と駆出し男』は、冒頭、堤真一演じる日本橋の豪商がお座敷遊びをしているシーンで、黙々と春画を描いているだけなので、気を付けていないと見逃してしまうかもしれません。
そんな英泉は、晩年、かつて坂本町にどんな芸人や学者が住んでいたかを記した「楓川鎧之渡古跡考」という図を描いています。そこには、自分はもとより、長唄の宗家・杵屋六左衛門、日本舞踊藤間流宗家・藤間勘十郎、力士・荒馬、芭蕉の一番弟子・宝井其角、落語「徂徠豆腐」でもおなじみの儒教学者・荻生徂徠らの住居や、元結という髷を結ぶ紐を作る人気ブランド「文七元結」の工場などがあったと描かれています。
其角は、近くに住んでいた徂徠をからかった「梅が香や隣は荻生惣右衛門」や、「文七に踏まれな庭の蝸牛」「元結のぬる間はかなし蟲の聲」など、この地にちなんだ句を遺しています。
其角が亡くなったのが1728年、徂徠が亡くなったのが1707年なので、1790年生まれの英泉は伝聞で書いたものだと思われますが、いまとなっては貴重な資料ですし、当時植木屋が多かったという坂本町(=兜町)の活気を知る数少ない手段でもあります。
海運橋から見た明治35(1902)年に建てられた本店2代目の建物となる株式会社第一銀行(詳しくはこちら)
11月23日(祝・月)開催の『老舗で味わう江戸気分! <女子塾>お江戸日本橋で蕎麦と落語~江戸の師走編~』は、15:00時開場 、15:30時開演です。もし少し早めにおうちを出られるようであれば、三越前から日本橋をわたり、昭和通りを歩道橋でわたって、兜町から坂本町を抜けて、新場橋へと向かわれるのはいかがでしょう? 素敵なお散歩となると思いますよ。
藪伊豆さんではもちろん江戸情緒たっぷりに落語とお蕎麦を楽しんでいただこうと思っています。そして、新場橋、楓川のことをもっと聞いてもいいと思う方はぜひ女子塾スタッフにお声がけください。実はこの堀川にはものすごい秘密が隠されているんです! そのお話はぜひお目にかかってから。お待ちしております!
特報! 柳家三語楼の演目、発表になりました!
じゃーん。 「文七元結」です。
なんだ。だから文七元結の話をしてたのか、などと言わず、年の瀬のこのお題。
ぜひ楽しんで行ってください。
チケットはこちら↓
by sekiguchi_avanti
| 2015-11-09 12:15
| 江戸